聴きたくない歌を聴いた。
違った聴こえを期待したけど無駄だった。
帯びた酒気が勝手に早送りボタンを押してる3分18秒だった。何回も何回も聴くけど何回も何回も変わらない。
霧雨か、そもそも霧なのか分からない水蒸気のような水の粒子の中を歩いて帰った。
寒くもなく冷たさもなく、ただただ心地良いぬるさで拍子抜けだった。びしょ濡れで帰りたかったのに。
中途半端でいるのが心地よかった。
手を繋ぐ理由も曖昧で良かった。
イヤホンが塞ぐのは片耳だけで良かった。
イヤホンから流れてくる歌の刻みと、踏切が鳴らす音頭のBPMが公倍数を見つけるたび、俺の琴線が揺らされる。
〝撫でるための距離〟と〝傷つけるための距離〟を見分けられることは思ったよりきつかった。できれば、君に何かしてやりたかった。
歌はずっと鳴ってて、俺は繰り返される3分18秒の中で呆然としてる。
色々思い出すから聴きたくない。けど忘れないように聴いてる。こういう浸り方はとてもキモイけど、自傷と自愛は時に同義だ。
俺は俺を愛してやることにしてる。
びしょ濡れで帰れたら楽だった。
もっと笑えたと思う。
もっとアイツを気遣えばよかった。
もっと違った言葉をかければよかった。
カラオケに行きてえ。